サブスタンス

公開 2004年
監督 コラリー・ファルジャ
公開当時 デミ・ムーア(61歳) マーガレット・クアリー(29歳)
デミ・ムーアの女優としてのヒストリーは、劇中では語られないかつて一世を風靡したとされるスター、エリザベスの半生を想像するに充分な説得力があります。
「ゴースト ニューヨークの幻」で一躍スターになり、「素顔のままで」のストリッパー役で裸体を披露し、「GIジェーン」で丸刈りの女性海兵隊、「チャーリーズエンジェル」では全身整形とも噂された肉体改造を施した彼女が、女優としての最後のカードを切った作品とも言えます。
若さと美が最重要視されるハリウッドで、自らの肉体と真摯に向き合ってきた彼女が主演でなければ本作はここまで注目を集めなかったでしょう。

元トップ女優のエリザベスは、交通事故に遭った事がきっかけで、謎の再生医療薬「サブスタンス」を使用し始める。
それは生みだされた自らのクローンと7日間ごとに肉体を交代するというものだった。
鏡しか無い白いタイル張りの手術室のような空間の床に横たわる二人の女。
エリザベスの背部を割ってクローンが誕生するシーンはグロテスクで、伊藤潤二のホラー漫画を彷彿とさせます。
若さと美しさ、50歳のエリザベスの経験値を合わせ持つ最強の美の女神「スー」が誕生する…
物理的な要素をまったく無視したSF展開ですが、エリザベスの苦痛と、血と粘液にまみれた描写から出産に似た生々しさを感じます。

7日間ごとにエリザベスとスーは肉体を交代する。
若く美しいスーは快楽に溺れ、次第にルールを破るようになる。
エリザベスに「サブスタンス」を勧めた男は
「この体で、7日間を耐えるのが辛い…」
彼の肉体は、老いに蝕まれていた。
「もう分身に侵食されているか…?」
若さと美への賞賛に溺れ、スーは自らを制御できなくなる。
スーへ若さを供給したため、エリザベスの体は次第に老いに蝕まれていく。
エリザベスは「サブスタンス」の提供者に助けを求める。
「“彼女”などいない。あなた自身なのだ…」
若さや美をもてはやす世間の風潮に一石を投じるシリアスな作風かと思いきや、終盤はB級スプラッターホラーへと急展開します。
「サブスタンス」の提供者の正体は誰なのか、新薬の治験を試みる悪徳な製薬会社なのか、それとも悪魔なのか…
最後まで語られることはありません。

映画館に見に行きましたが、強烈な色彩と音響で、画面にエネルギーを吸い取られるような熱量があり、見終わった後かなり疲労感を覚えました。
男性と女性では、感想が大きく異なるのではないでしょうか。
エリザベスが同級生と会う前に、鏡の中の自分の姿に納得できず何度も化粧直しをするシーンは印象的で、女性監督ならではの女心の琴線に触れる演出が随所で見られます。
芸能界で過剰なまでのアンチエイジングを施している女優を見ると、老いという宿命に抗おうとする姿はエリザベスと重なり、エンターテイメントの世界で生きる事の過酷さを感じます。
スターで無くとも長年女をやっていれば、若い頃のように異性から気遣いを受ける事が少なくなった事を実感させられる苦い経験が誰しもあるのではないでしょうか。

公開当時デミ・ムーアは61歳で、実年齢より10歳も若い役を演じており、見事なボディラインは日頃の研鑽の賜物といえます。
幼い頃家庭環境に恵まれず、親族の家を転々とし、16歳でモデルデビューし、酒と薬物依存症から立ち直り、女優としてあらゆるシフトチェンジを試みて世間の注目を集めてきた彼女からすれば、本作は女優としての新たな段階に進む起爆剤とも言え、美人女優の殻を脱ぎ捨てた今後こそ、俳優としての円熟期になるのではないでしょうか。
「チャーリーズ・エンジェル フルスロットル」以降キャリアが低迷している感がありましたが、本作の演技で再びハリウッドのトップスターへと返り咲いて欲しいものです。
自分自身をパロディ化したとも言える本作で、すべてをさらけ出し過ぎた彼女を心配したくなってしまいますが、他の出演者と楽しそうに談笑している映画のオフショットを見て「年取るのって、嫌よね~」と周囲の反応を鼻先で笑っているように見え、救われる思いがしました。
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