ザ・モンスター

公開 1982年
監督 ゲイリー・シャーマン
出演 シーズン・ヒューブリー ウィングス・ハウザー

私が10代の頃、「日曜洋画劇場」で放送されあまりに衝撃的な内容にショックを受けたのを覚えています。

ありがちなサスペンスアクションだと思っていたら、最終盤まで手に汗握る緊張感のある展開で、このジャンルにおいては隠れた名作といえるのではないでしょうか。

「モンスター」の異名にふさわしく悪名高いポン引きラムロッドはイカれたサディストで、その凶暴さは「13日の金曜日」のジェイソンをも凌駕するレベルであり、当時高校生だった私は軽くトラウマになったほどです。

映画の冒頭、解説を担当していた高島忠雄の「実際に起こった事件をもとに作られた映画で…」の前フリも効いており、日曜夜の緩んだ空気が引き締まる戦慄の内容でした。

シングルマザーのカーラはロサンゼルスの夜の街で働く娼婦。
彼女はポン引きやヒモに頼らず、単身で客をとっていた。

映画の序盤、子供を母親に預け街に出勤するカーラ。
普通の素朴な母親に見えた彼女が、夜の街でセクシーな服に着替え突然娼婦に変身するのも衝撃をうけたものです。

ある日、友人の娼婦仲間ジンジャーが凄惨なリンチを受けた無残な姿で発見される。
通称「モンスター」と呼ばれる男ラムロッドは
「お前は一生俺のために客をとるんだ! 俺がもう使い物にならないと判断するまではな!」
針金のハンガーを変形させて作った「リンチスティック」なる凶器を使い、女性の局部をえぐる暴行を加える。

リンチスティック… 私はラムロッドの凶行に心底恐怖を覚え、しばらくは自宅の針金ハンガーを見ただけで背筋が寒くなりました。

悪名高いラムロッドの仕業だと見抜いたロス市警のトム・ウオルシュ刑事は、カーラにおとり捜査に協力するよう依頼してきた。
カーラの協力でラムロッドは一度逮捕されたものの、護送車から脱走してしまう。
自分を罠にはめたカーラに借りを返すべく、ラムロッドはカーラの行方を追う…

怒りに狂ったラムロッドが解き放たれた野獣のようにカーラを追う後半は、手のひらに汗が滲むほどの恐怖と緊張感がありました。

ラムロッドはカーラをベッドに縛り付け、リンチスティックで暴行を加えようとする寸前、ウオルシュ刑事らが突入、ラムロッドに銃でとどめを刺す…

当時「日曜洋画劇場」のような番組には解説者がおり、映画の始めと終わりに映画のこぼれ話などを披露していたものです。
本作で狂気のサディスト、ラムロッドを演じたウィングス・ハウザーは、実生活ではアメフトを愛する好青年だそうで、少し救われた気になったのを覚えています。

ラムロッドの凶行に怯え逃げる女たちと、それを追い詰める刑事という主軸のストーリーの他にも、カーラが倒錯した変態趣味の老人の相手をさせられたりなど、夜の街で働く女性とそれにぶら下がって生活するヒモの男たちの悲喜こもごもが描かれています。

内容はいたってシンプルであるにも関わらず、ここまで引っ張れるのはなんといっても「女性を傷つけることに快感を感じる」ラムロッドの怪物性です。
実際に暴行を加えるシーンを映すことはないものの、ラムロッドの全身から漂う残忍な空気が映画全体に緊張感を与えています。

華やかな夜のハリウッドを舞台に、売春、ドラッグ、バイオレンスなどの社会の暗部を映し出しており、映画のラストで傷ついたカーラが担架に乗せられ救急車に運ばれるときの言葉「この街は、永遠に変わらないわ…」には虚しさと絶望を感じてしまいました。

カーラと刑事ウオルシュが心を通わせるシーンもあり、「プリティ・ウーマン」のように二人が結ばれたら、と思ってしまいますが、そううまくいかないのが現実の人生ですね。