プリデスティネーション

公開 2014年
監督 マイケル・スピエリッグ
公開当時 イーサン・ホーク(44歳) サラ・スヌーク(27歳)


「プリデスティネーション」とは「宿命」という意味なのですね。
伏線が張り巡らされた複雑な内容ながら、上質なSF小説を読み終わった後のような余韻が残ります。

タイムパラドックスの謎解きに、一人の女性の数奇な運命を重ね、人間ドラマとしても充分見応えがあり、
主演二人の演技力が光る作品です。

1970年、場末のバーに「男」が現れる。
「男」はバーテンダーに、自らの数奇な人生について語り始める。

「男」は女性として生まれ、孤児院で育った。
人付き合いが苦手で、外見にコンプレックスを持つジェーンは、ある日を境に鏡を見なくなった。

成績優秀、身体能力も優れていたジェーンは、女性宇宙飛行士を目指し、スペースコープ社を訪れる。
ジェーンら女性宇宙飛行士の任務とは、長期間宇宙に滞在する男性宇宙飛行士の性処理の相手となること。
ルックスや処女であることも大事な選考基準となる。

ジェーンは最終選考まで残ったものの、身体的な理由から不合格になる。
ジェーンは男性女性両方の生殖器を持つ半陰陽だった。

ジェーンは生まれて初めて恋に落ちる。
だが、恋人は出会ってすぐに失踪。
ジェーンは妊娠していた。

半陰陽であるジェーンは、帝王切開で女児を出産。
出産時のトラブルから、主治医により、子宮を摘出、男性器のみを残したと告げられる。

子供と共に生活するため、性転換手術を受け、男性として生きる覚悟を決めるジェーン。
が、程なくして我が子は何者かに連れ去られる。

「男」の長い身の上話が終わった。
バーテンダーは「今でもその男を恨んでいるか? 殺したいなら手助けする」

バーテンダーは「男」を地下へ連れていく。
バーテンダーは「男」を1963年にタイムスリップさせ、出会う前に元恋人を殺害しろと言う。

バーテンダーは時空を行き来し犯罪を未然に防ぐ「時警察察」だった

なんとジェーンの元恋人は、タイムスリップした「男」だった。
「信じられない。綺麗だ…」
思春期以降、鏡を見なかった「男」は、美しい女性となった「自分」を見て驚く。
ジェーンが「自分」と知りながら、「男」は惹かれていく…

「鶏が先か、卵が先か…」

この物語の種明かしは、なんとバーテンダー、ジェーン、「男」はすべて同一人物であるという事。
ジェーンは女性から男性へと性転換し、「男」となった後過去の自分と交わり、自分を生むという無限ループのような構造です。

バーテンダーは「男」が任務で大火傷を負った後、整形手術で容姿を変えた姿であり、ジェーンの子供を連れ去って孤児院の前に置いたのはバーテンダー。

「どらえもん」でタイムパラドックスについては子供の頃にしっかりと学んできているためか、「同じ空間に二人の自分がいる」という設定にはさほど抵抗はありません。

タイムパラドックス理論はともかく、サラ・スヌーク演じる「男」と、イーサン・ホーク演じる「バーテンダー」の身長と体形に差があるので、二人が顔を変えただけの同一人物という設定は正直違和感があります。
本作で登場する「タイムマシン」も、バイオリンケースのような箱に日時を設定するダイヤルが付いただけのシンプルなもので、複雑なタイムマシンの理論を切り捨て人間ドラマに時間を割いた潔い構造です。

こじらせ女子ジェーンが、未来からやって来た自分である「男」に心のすべてを見透かされ恋に落ちる設定も極めて自然で、自分で自分を生むという一見グロテスクな行為をエモーショナルに昇華しています。
映画の肝とも言えるこのシーンを、一人二役で見事に演じているサラ・スヌークの演技力は素晴らしいですね。

SF作品でありながら、主題は不当な性差別やジェンダーの問題であり、理解者が誰もおらず愛情に飢えたジェーンの孤独と不憫さが心に沁みます。

ジェーンが訓練を受けるスペースコープ社では、訓練生にバーチャルな宇宙空間の体験をさせたりと、70年代のポップカルチャーのテイストがあり、劇中のジェーンのファッションも可愛いですね。

映画のポスターから派手なSFアクションを想像したとしたら期待外れかもしれません。

公開当時はさほど話題にならなかったようですが、Amazonprimeなどの動画配信でじわじわと評判が広がり、ネットの映画評などでおすすめの映画に挙げられている事が多い作品です。

随所に散りばめられた伏線を回収しながら何度も見たくなる、SF映画の異色の秀作ですね。