ヘドヴィク・アンド・アングリーインチ

公開 2001年
監督 ジョン・キャメロン・ミッチェル
公開当時 ジョン・キャメロン・ミッチェル(38歳)


ジョン・キャメロン・ミッチェルの情熱と憂いを秘めた痺れる歌声と圧巻のパフォーマンスで、冒頭のライブシーンから魅了されてしまいました。

ドラアグ・クイーンのようなスタイルに、ヘヴィ・メタルのような骨太で力強いロックンロールのアンバランスさで一度見たら忘れられないインパクトがあります。

ヘドウィグは「アングリー・インチ」というバンドを引き連れて、共作した楽曲でロックスターとなったかつての恋人であるトミー・ノーシスの全米コンサートを追いかけながら巡業する生活を送っている。
ヘドウィグはトミーに自らの楽曲を盗作されたとして裁判を起こそうとしていた…

片田舎のレストラン。
ゲリラ的にライブを始めたヘドヴィクらに、地元の客は戸惑い爆音に耳を塞ぐ。

ジョン・キャメロン・ミッチェルの驚くべき歌唱力…
本業のロックスターも顔負けの圧巻のステージで、伸びやかで艶があり低音でセクシーな歌声に圧倒され思考停止してしまうほどです。

かつて二人で一つだった人間が神の怒りに触れ二つに引き裂かれたエピソードを歌う「The Origin of Love(愛の起源)」

“人々の力を恐れた神々は
人々を真っ二つに引き裂いた
そして私たちが払った代償を忘れないようにと
傷口を縫い合わせ
お腹のあたりで糸を結んだ…"

かつての恋人で人気ロックスターであるトミーとの合作で、魂の片割れと信じたトミーに対する愛と、彼の裏切りによって傷ついたヘドヴィクの想いが伝わってきます。

共産主義体制下の東ドイツで生まれ、アメリカ人の軍人と恋に落ちてアメリカに渡り、性的合手術を受けるまでのヘドヴィクの悲惨な過去がMTVのようなポップな映像で語られます。

性的合手術は失敗、股間には醜い瘢痕が残る。
恋人も去り絶望に暮れるも、昔抱いたロック歌手になる夢を思い起こしアルバイトをしながらバンド活動を始めるヘドヴィク。

自分と同じくロックスターに憧れる17歳の少年トミーと出会う。
ヘドヴィクを女性だと思っていたトミーは、性転換手術の瘢痕を見て尻込みし、ヘドヴィクの元を去る…

ロックスターとなったトミーの後を追いかけながら全米を巡業するヘドヴィク。
「アングリー・インチ」のメンバーで形式上の夫であるイツハクは
「なぜ、新曲を書かない?!」
トミーに裏切られた悔しさと、愛情と執着。
ヘドヴィクの時間は止まっていた。

引き裂かれ傷ついた心を歌う「Hedwig’s Lament (ヘドヴィクの嘆き)」

“ナイフを手に
寄ってたかってあたしを切り刻む
かけらの1つはあたしのママに
かけらの1つはあるロックスターに捧げた
全てを奪って
彼は逃げた…"

トミーと再会したヘドヴィク。
彼の歌う「Wicked Little Town (意地悪な街)」は、ヘドヴィクに対する償いの想いが込められていた。

“僕の無知を許しておくれ
だって僕はたった子供で
君はすごく大きかった
どんな神が今まで考えついたよりも
女よりも男よりも
今 わかったんだ
僕が君から奪ったものの大きさが… "

愛、執着、諦め、悲しみ 怒り…
ステージ上のトミーを見つめるヘドヴィクの表情が、あまりにも多くの事を物語っています。

この映画の最後の曲「Midnight Radio (真夜中のラジオ)」

“あなたは雨のように降り注ぎ、私をいっぱいに満たして
そして突然去った
あなたはひとつで完全だと知った…"

トミーへの執着から解き放たれ、一人のミュージシャンとして新曲を披露するヘドヴィク。

“変わり者のロックンローラーたちに乾杯
あなたたちは正しい
だから手を取りあって
今夜は歌い続けよう

あなたたちは輝いてる 闇夜に光る星々のよう
真夜中のラジオのメッセージ
新しいレコードみたいにまわる
全ての異端児と負け犬たち
そう あなたたちはロックンローラー
自分のロックンロールを奏でる"

自分らしくあることに誇りを持ち、力強く生きろというマイノリティーに対するメッセージが込められています。

ステージの後、裸で力無く路地を歩くヘドヴィク。

トミーを憎むことで精神の崩壊を免れていたヘドヴィクは、彼を許したことで拠り所を失い行き場なく彷徨っているように見えるのです。

ジョン・キャメロン・ミッチェルは俳優兼脚本家で、本作の原作、脚本、監督を務めており、自らもゲイであることを公表しています。
世界中で舞台化され、日本でも山本耕史、森山未來らが主演を務めましたが、やはり彼の演じるヘドヴィクは唯一無二であると言えます。

生涯に一度は見るべきミュージカル映画の傑作です。

洋画 ヘ

Posted by eijun