ナミビアの砂漠

公開 2024年
監督 山中瑤子
公開当時 河合優実(24歳)
主演の河合優実は華奢ながら肉感的で、石原さとみと上戸彩をミックスしたような最強のルックス、さらに抜群の演技力を合わせ持つ稀有な女優ですね。
透明感とアンニュイな雰囲気があり、その存在感は角川映画全盛期の薬師丸ひろ子や原田知世を彷彿とさせます。
本作は見る者の年齢や性別、置かれている立場によって感想が大きく異なる作品と言えます。
今回はおばさんならではの意地悪目線で感想を語ってみたいと思います。

脱毛エステサロンで働く21歳のカナは、人生に意味を見出すことが出来ず何気なく生きていた。
同棲する恋人ホンダは家事一切を引き受けカナの身の回りの世話までする優しい男だが、カナは自信家で皮肉っぽいクリエイター、ハヤシと出会い彼に惹かれていく…
美と若さの資産を存分に使い、自分を庇護してくれる男を渡り歩くカナ。
カナにとって家事全般を担い着替えまで手伝ってくれるホンダは母親、カナを庇護しながらも時に厳しい事を言い体当たりでコミュニケーションを取るハヤシは父親のような存在に見えます。
端々にカナの両親に対する不信や不和が語られますが、彼女は無意識に男性に親を求めているのかもしれません。

ホンダとハヤシは二人ともそこそこハイスペックで、その立ち振る舞いから生まれも育ちも良いように見え、カナの育った界隈には生息していないような男性なのです。
カナのルックスや性的な魅力に夢中になり、彼女を無条件で受け入れ可愛がる二人なのですが、これも彼らの若さゆえですね。
女性は年齢を重ねる毎に、無条件で愛されるという事が少なくなっていくものです。

カナの働く脱毛サロンに新人が入社してくる。
「カナさんて、いくつなんすか?」「…21。」
「へ~ 2個上っすね。」
ロッカールームでの人を値踏みするような目つきといい、ズケズケとした物言いといい、明らかにガラの悪い女子。
カナは無気力ながらやるべき仕事はきちんとこなしているように見えましたが、この新人は性根が腐ってそうですね。
「ここ、喫煙所あるんっすか?」「無いよ。」
「マジっすか…。 辞めよっかな~」
カナはこの新人と働くようになってから、急速に労働意欲を無くしていったように見えます。

カナは仕事へのストレスからか、同棲するハヤシに当たり散らす事が多くなり、喧嘩も耐えなくなる。
「私、働かなくてもいいかな…」
カナが精神のバランスを崩した理由は、若さと美の資産しか持たない自身に対する将来への焦りと不安なのではないでしょうか。
2歳年下の新人と出会った事が、カナの潜在的な不安を加速させたのかもしれません。
プロレスもどきにじゃれ合い、カナの鬱憤のはけ口になるハヤシ。
なんだかんだで結局カナには優しく、カナを養い優しく見守る。
実家が裕福なゆえか余裕があり、身勝手なカナに対して大人の対応をするハヤシなのですが、この二人は育った環境が違い過ぎるため、長続きはしないでしょうね。
愛には瞬発力だけでなく、持久力も必要なのです。
カナが優しい夫を手に入れ、無事専業主婦の地位を手に入れる事ができるのか、お手並み拝見といった所です。

「ナミビアの砂漠」という意味深なタイトルはナミビア共和国の「ナビブ砂漠」に由来し、「何もない」という意味を持っているそうです。
カナが時折、アフリカのサバンナの風景のようなYouTube動画を眺めているシーンがあり、カナの心の空虚さを現しているのでしょうか。

河合優実を初めて知ったのは「プラン75」のコールセンター職員の役柄でしたが、本作で上半身裸のヌードを披露しており、ハヤシとのトイレでのW放尿シーンなど、アイドル映画に留まらせない体当たりの演技で女優魂を感じます。
本作のレビューには賛否両論様々あったものの、河合優実の魅力を否定する意見はほとんど見られなかったように思います。
冒頭シーンの彼女がただぶらぶらと街歩きをしているだけで画面を制する存在感があり、現時点で間違いなく若手№1女優と言えますね。
河合優実のみならず共演の金子大地も素晴らしく、二人のカメラの存在と台本をまったく感じさせない自然なやりとりが秀逸で、舞台劇のような臨場感があります。
この手の作品は役者の力量が最も問われるジャンルですね。
概ね若い男女のじゃれ合いと喧嘩で構成されている本作ですが、137分の長尺にも関わらずカナと男たちの支配関係のシーソーゲームは緊張感があり、これといったクライマックスも無い作風ながら最後まで観客の心を掴んで離さない監督の手腕を感じます。
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