マシニスト

公開 2004年
監督 ブラッド・アンダーソン
公開当時 クリスチャン・ベール(30歳)


役作りのため30キロ近く減量したクリスチャン・ベールの肉体は息を呑むほどです。
サイコスリラーとして充分見応えのある秀作と言えますが、内容的にこれほどの役作りが必要だったのかどうかはわかりません。

ただ彼の彼の醸し出す「ただ事で無い」雰囲気が、映画にさらなる緊張感を与えている事は間違いありません。
映画を見る前からクリスチャン・ベールの凄まじい役者魂に圧倒され思考停止してしまいます。

「もう一年、眠ってないんだ…」
機械工として働くトレバーは、深刻な不眠症に悩まされていた。

唯一心を許せる相手、娼婦のスティービーは彼を心配し、
「それ以上痩せたら、あなた死ぬわ」

あばら骨が浮き出、骸骨のようにやせ衰えたトレバーの肉体。

彫りの深い造形ゆえか、ライティングの加減で彼の顔はドクロや死神のようにも見え、それが彼の抱える心の闇を浮き彫りにしているかのようです。

ある日、アイバンと名乗る謎の男が現れる。
トレバーは男の存在に神経をかき乱される…

冷蔵庫に張られた不吉なメモ、曖昧になる記憶、トレバーは周囲の人間との認識のズレにいら立ちと不安を感じるようになる…

「事故で右手の親指を無くしたんだ。代わりに足の親指を移植した…」
アイバンは「笑ゥせぇるすまん」の喪黒福造にワイルドさを足したような風貌で、二次元的な不気味さがあり、彼の怪物的で得体の知れない存在感がストーリーを更なる闇へと導いています。

工場の機械に腕が巻き込まれるシーンは悪夢のような絶望感があり、トレバーの窮地を共感する事ができます。

トレバーは空港のカフェで、マリアというウェイトレスの女性と親しくなる。
マリアはシングルマザーで、トレバーは休日に母子と共に遊園地へと出かける。

お化け屋敷「ルート666」の悪趣味な事といったら…

アメリカの田舎ホラーを凝縮したようなライド型アトラクションで、殺人事件、首つり、モーテルに娼婦など、およそ子供の鑑賞に耐えないような展示物で構成されているのです。

右が「天国」左が「地獄」と記された分かれ道。
ライドは左に進み、マリアの息子はてんかんの発作を起こし泡を吹いて倒れる。

冷蔵庫のメモ、空港、ルート666、アイバン、それら全ては過去にトレバーが犯した罪の断片だった。

「ひき逃げをした」
トレバーは警察署に自首する。

拘置所の中で「やっと、眠れる…」
眼を閉じるトレバー。

トレバーは自らが犯した罪から逃避し、別人となって生きようとしたが、罪悪感からは逃れられなかった。

断片的な伏線がラストで見事に繋がる技ありのサイコスリラーで、見始めると世界観に飲み込まれ、一瞬たりとも画面から目を離すことができません。

どんよりとした曇り空のような陰鬱な色調と、クリスチャン・ベールの肉体がより一層本作の恐怖を煽っています。

撮影時のクリスチャンベールは185cmの身長に対し体重は54キロ。
毎日りんご1個とツナ缶のみで過ごし、本人は45キロまで落とそうとしたものの、周囲の人間から命の危険があるからと止められたそうです。
この後「バットマン・ビギンズ」のオーディションのため、半年で体重を45キロも増やしたというから驚きですね。

ストーリーそのものはありがちなサスペンスで、勘の良い人なら早々にオチが読めてしまうかもしれませんが、彼の想像を絶する役作りが見る者の思考を妨げミスリードさせられてしまいます。

受賞歴が無い所をみると、本作はさほど評価が高く無いようですが、見る者の記憶に焼き付く、映画史に残る作品と言えるかもしれません。