ナポレオン・ダイナマイト

公開 2004年
監督 ジャレッド・ヘス
公開当時 ジョン・ヘダー(27歳)
その名もナポレオン・ダイナマイト… 名前負けも甚だしい片田舎の冴えない高校生の日常と、周囲の人間の悲喜こもごもを淡々と描いています。
主人公ナポレオン・ダイナマイトは、常に半開きの口に眠たそうな瞼で脱力感に溢れており、やることなすこと要領が悪く、キラキラした青春譚とは程遠いものの、爽やかな後味が残り、何度も見たくなる中毒性があります。
製作費わずか400万円ほどの超インディーズ作品ながら口コミで評判が広がり、全米公開にまで拡大したそうです。

料理の皿にケチャップで書かれたオープニングクレジットをはじめ、冒頭から独特のクセがあり映画の世界観に引きずり込まれてしまいます。
片田舎の高校に通うナポレオン・ダイナマイトは、変わり者としていつも周囲に馬鹿にされ、いじめられている。
「ボウガンの腕を買われて、マフィアにスカウトされてるんだ」
「彼女がモデルをしてる」
など、なぜか軽くハッタリをかますのも中二病全開ですね。
ダイナマイト家は、引きこもりでチャットばかりしている兄のキップと祖母の3人家族。
ある日祖母が骨折して入院、代わりに叔父のリコが保護者としてダイナマイト家に居座る。
リコは元ラガーマンで、しがない現在を嘆いて過去の栄光を引きずり、
「今の記憶を持ったまま、80年代にタイムスリップできたら最高じゃないか…」
想いが高じて、通販で怪しげなタイムマシーンを購入する。
まったく、良い大人が何をしているんだか…

ある日、メキシコ人の転校生ペドロをロッカーまで案内する事になったナポレオン。
ボッチだったナポレオンに、友達ができる。
ペドロは彼の中のラテンの血がそうさせるのか、学園一のマドンナに告白したり、生徒会長に立候補したりとすべてにおいてアグレッシブ、ナポレオンもそんな彼に引きずられるように、徐々に他者と交流を持ち始める。

生徒会選挙当日。ライバルは学園のマドンナ、サニー。
「私が当選したら、学校にキラキラメイクの自動販売機を設置します…」
カースト上位女子のみに忖度した演説の後、チームでダンスを披露する。
負けを確信し意気消沈したペドロは、
「話すことは何もない、って話すよ…」
ナポレオンはペドロをサポートすべく、半ば破れかぶれでジャミロクワイの「Canned Heat」をバックに自己流のダンスを披露する。
予想の斜め上を行くダンスと選曲の勝利か、ナポレオンの漢気に、会場から割れんばかりの拍手が送られる。
まさに下剋上、ペドロは票を集め見事に当選する。
いじめられっ子のナポレオンと、メキシコ人の転校生ペドロの頼りないコンビが、いけすかないカースト上位連中に勝利するのも、溜飲が下がり見ていて清々しいものがあります。
体育の授業で一人ボール叩きをしていたナポレオンに、共に選挙戦を戦ったデビーが歩みよって来る。
二人は共にボール叩きに興じる…
さほど起伏は無く、田舎町の高校生の日常を淡々と描いているにも関わらず、ラストは皆ほんの少し成長し、ほんの少し幸せになっており、見終わったあと魂が浄化されたような温かい気持ちになります。

主演のジョン・ヘダーの醸し出す何とも言えない「味」が無ければ、本作はありきたりなオタク男子の物語でおわっていいたかもしれません。
人並みの青春に憧れを抱きながらも、強すぎる自我ゆえに他者から疎外される彼の諦めと苦悩が伝わってきます。
漫画のようなキラキラした青春時代を送ってきた人以外は、誰しも彼に自分を重ねてしまうのではないでしょうか。

当時日本で「電車男」がヒットしていたことにあやかり、主人公がバス通学をしていた事だけを理由に公開当時の邦題は「バス男」でしたが、本作を見たファンが抗議し、オリジナルタイトルの「ナポレオン・ダイナマイト」で改めてDVDリリースされ、その際、発売元の映画配給会社が「時代に便乗してこのような邦題をつけてしまい、大変申し訳ありませんでした」と公式に謝罪しています。
それだけ、ファンに愛されている映画ということですね。
「Canned Heat」は90年代の名曲でCMでも繰り返し流れていた記憶があり、ジャミロクワイは日本でも絶大な人気がありました。
私は今でもこの曲を聞くと、ジャミロクワイ本人よりナポレオンの下手ウマなダンスシーンが頭に浮かびます。
本作は2007年公開で、この曲の「微妙に古くてダサい名曲」の味わいが最大限に生かされていますね。
見た後「Canned Heat」が脳内で無限ループ再生される事間違い無しの、青春映画の名作です。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません