駆込み女と駆出し男

2024年8月7日

公開 2015年
監督 原田眞人
公開当時 満島ひかり(30歳) 大泉洋(42歳) 戸田恵梨香(27歳)


井上ひさしの「東慶寺花だより」が原作なのですね。
満島ひかりが好きなので見たのですが期待を上回る作品でした。

時代考証の綿密さや古典落語のようなウイットに富んだセリフまわし、小道具に至るまで一切手抜きが無く江戸時代の空気をしっかりと感じることができました。こういう時代劇は衣装や小道具がセリフよりも見る者に多くを語りかけるところがありますよね。
意味が分からない言葉や、両手首から先が無い女性が登場するのですが、あえて説明はせず見る者の想像に委ねているところも好奇心の余白を与えてくれています。

満島ひかり、お歯黒&眉ナシで熱演!『駆込み女と駆出し男』 | cinemacafe.net

それにしても江戸時代の会話のなんと豊かな事!
時代と共に言葉というのは省略を繰り返し現在では必要最小限のワードのみが行き交っていますが、どこか味気なく寂しさを感じます。
お互いの粋さを競い合うような言い回しの応酬が見ていてとても心地よいですね。

幕府公認の縁切寺は鎌倉の東慶寺と群馬の道徳寺のみだったそうです。
駆け込み寺に駆け込んでも、離婚が成立するのは2年の寺での修行を終えてから。
離婚に至るまでの事情聴取があったり持参金によって寺での待遇のランクが変るのもリアルで面白いですね。

駆込み女と駆出し男 - Kinotayo

満島ひかり演じるお堀切屋の妾お吟はとある事情で夫との離縁を望み駆け込むのですがさすがの存在感ですね。まゆ無しお歯黒でこの映画の世界観にスッと溶け込んでいます。

大泉洋は素に近い感じで演じていると思いますが、この映画の隙無く作りこまれた時代感の中に程よい抜け感を与えていますね。

調べてみたところ、江戸時代においてもほとんどの人は容易に離婚を成立させることができたとあります。
縁切寺は最終手段であり、夫が何らかの事情で離婚に同意しなかった時のみ効力を発揮したようです。

杉浦日菜子の「一日江戸人」では、江戸時代は現代に比べずっと性に対しておおらかで、同性愛も堂々と認められていたし女性が離婚再婚を繰り返すのも当たり前だったそうですね。むしろ女性は独り身の男性を救済するためなるべくたくさんの人と再婚するように推奨されていたそうです。
男性も主夫はあたりまえ、男性は仕事 女性は家事なんて概念はなかったそうです。
西洋の価値観が入ってきてからなのでしょうか、現代の方がよほど閉塞感がありますよね。

近年時代劇をテレビで見ることもほとんど無くなりましたが、テレビ放送の時代劇は時代考証が中途半端でセリフも現代とほぼ変わらず、若い人に見てもらおうとわかりやすくした結果、作品のクオリティーを下げる事になってしまいましたね。
若者にだって偽物か本物か、良いか悪いかの判断はできるのに…
はちゃめちゃな時代劇を作るなら、由美かおる主演の「水戸黄門外伝 かげろう忍法帖」くらいの振り切った感じがないとだめですね。
たしかこのドラマのキャッチコピーは「女には悩殺という名の武器がある…」だったと思います。
中途半端が一番見る者を萎えさせますね。
この映画くらい作りこまれた時代劇をテレビで放送したとしたら、老若男女問わず皆夢中になって見てしまうのではないでしょうか。

この映画を見た後、鎌倉の東慶寺を訪ねてみたのですが、三行半が書かれた書物や離婚理由の事情聴取などの資料が残っており閲覧可能だそうです。
私が行った時はあいにく展示室が修繕作業中で見ることができませんでした。
5月だったので菖蒲がきれいに咲いていて、お寺の庭をしばし散策しながらこの映画に思いを馳せていました。

この映画の御用宿柏谷は女性をかくまうとともに新しい人生を生きるための支援もするのですが、現代にもこのような弱い女性を守る国家公認の施設があればいいのに、なぜ無いんだろうと思います。

現在の日本映画界の枠組みの中で、このような素晴らしい作品を作った人たちに拍手を送りたいと思います。

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Posted by eijun