蜘蛛女

公開 1993年
監督 ピーター・メダック
公開当時 ゲイリー・オールドマン(35歳) レナ・オリン(38歳)
本作のモナは映画史上最凶の悪女といっても過言ではありません。
女性ならではの脆さや母性を垣間見せる事は全く無く、モナは血も涙も無い女性の皮を被った化け物と言う体で、今までに見たことの無い異次元の悪女を見せられた感がありました。
気だるい雰囲気と不穏なサックスの音色でねっとりした独特の空気感があり、ビリビリした緊張感が途切れず、午後ローで十数年ぶりに鑑賞しましたが最後まで固唾を飲んで見てしまいました。

ジャック・グリマルディは巡査部長でありながらマフィアにも内通し、報酬を得ていた。
「まったく、なぜお前ばかりモテる?」
同僚からロミオ(色男)と囃される彼は、美しい妻のナタリーと愛し合いながらも、若い愛人シェリーまで囲い、マフィアからの賄賂で潤った快適な生活を送っていた。
ある日、ジャックはマフィアの女殺し屋モナ・デマルコフを護送する任務に就く。
「金持ちになりたくない? 刑事さん。現ナマで20万ドルってのはどう? もちろん税金もかからない。それって最高じゃない?」
モナは美しくセクシーで、動物の雌のような生々しい魅力を放っており、「グッフフフフフ…」という独特の一度聴いたら忘れられない笑い声や背中がゾクゾクするような低くかすれた吹き替えは、オリジナルにかなり近い印象です。

モナはマフィアのボスのドン・ファルコーネでさえ持て余し怖れるほど、狡猾で残忍な女でもあった。
ジャックはファルコーネからモナの殺害を命じられるも失敗し、つま先を切断される懲罰を受ける。
「ドンはいつもつま先よ」と事も無げなモナ。
自らの死亡診断書と引き換えにジャックに10万ドルを渡す。
「人を愛した事あるか? 答えなくていい…」
隙を見せたジャックの首を、隠し持ったロープで絞め上げるるモナ。
ジャックに腕を撃ち抜かれても「ギャハハハハ…」と笑い転げ、運転席のジャックの首をバックシートから両脚で締め上げる。
邦題の「蜘蛛女」は、このシーンから来ているのでしょうか。
追突し停車した車のフロントガラスを足で蹴破り、後ろ手に手錠を掛けられた手で10万ドルの入ったバックを持ち、口に死亡診断書をくわえ、裸足でパタパタパタとその場から走り去るモナは、もはや物の怪のような恐ろしさがあり、何度見てもこのシーンには圧倒されてしまいます。
モナを取り逃がしたジャック。
ジャックはまるで蜘蛛の巣に絡めとられるようにモナの術中に嵌まり、絶望的な結末へと向かう…
本作の一番の見所は言わずもがなモナの怪物性であり、主役のゲイリー・オールドマンが霞むほどトラウマ級の強烈なキャラクターといえます。
モナの「悪」には理由や背景を感じず、野生の猛獣ようにこの世に生まれ落ちた瞬間から狡猾で獰猛だったように見えます。
男社会のマフィアの世界で美しい女性の外見を持っているという事は、彼女にとっては弱点というよりは大きなアドバンテージだったのではないでしょうか。
16歳の時に初体験の相手を殺害し「初めての相手って、忘れられないものよね…」と涙ながらに語る常人とはかけ離れた思考回路を持っているのです。
モナは左手の薬指と中指が欠損しており、これはモナを演じたレナ・オリンの身体的特徴かと思いきやそうでは無く、キャラクターを際立たせるための演出のようで、この特徴が彼女の動物的な生々しい色気を引き立てているように思います。
レナ・オリン自身は180cmの長身で、すらりと伸びた美脚の太腿を露にし、ガーターベルトの紐のラインに沿って股間に視線が誘導される演出になっており、ジャックならずとも股間に視線が吸い込まれてしまいます。
左腕を失っても、義手をつけた自分を鏡で眺め「悪く無いわね」とばかりに一服ふかす…
普通の人間ならかなりの精神的なダメージを負うところですが、彼女にとっては「腕の一本や2本どうってことない」ということなのでしょうか。
まさに存在自体が悪夢と言える怪物で「悪女」と呼ぶのもはばかられるほどのワルの中のワル、性別をも超越したあっぱれなアウトローですね。

妻ナタリー役のアナベラ・シオラや愛人シェリー役のジュリエット・ルイスといい、本作に出演する女優陣はみな一筋縄ではいかないクセがあり、ノアール映画としてはさほど捻りも無い本作に深みを与え独特の空気感を醸しだしています。
特にシェリーはマリリン・モンローのような甘さとクセが共存した味わいのあるキャラクターで存在感が際立っています。
ジャックは片田舎のダイナーで、いつか現れるかもしれない妻を待ち続ける。
原題の「Romeo Is Bleeding」は「色男は満身創痍」という意味合いがあり、ゲイリー・オールドマンは欲に目がくらんだ女癖の悪い、かといってワルにもなり切れない情けない男の役が実に似合っています。
ジャックは女を自身の意のままに操れるという奇妙な自信があり、モナに思考パターンを完全に読まれ掌のうえで転がされる様子は、女性目線で見ると痛快でもあります。
人生の狂わされたという点で、モナはジャックにとってのファムファタール「運命の女」と言えますね。
「本当の地獄とは、一番大事なものを見失う事」
何もかも失って初めて一番大事なものに気付く、人間の愚かさを描いた作品とも言えます。
昼下がりの平日に偶然見てしまった人は間違いなくトラウマに陥る恐ろしい「午後ロー地雷映画」です。
総合評価☆☆☆☆☆
ストーリー★★★★★
流し見許容度★
午後ロー親和性★★★★★










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