メメント

公開 2000年
監督 クリストファー・ノーラン
公開当時 ガイ・ピアース(33歳)
「10分間しか記憶が保てない男」が妻を殺した犯人を捜し復讐をしようとするという設定だけでも発明ともいえるアイデアで、メモやタトゥの文字を追いながら必死に記憶を手繰り寄せようとする主人公に冒頭から感情移入してしまいます。
パズルのピースが少しずつ繋がり次第に全体像が明らかになる展開は当時としては斬新で、ストーリーは難解で分かりにいものの、上質でスリリングなサスペンスを見たという満足感がありました。
「短期記憶障害」を患うレナードは、ある日モーテルの一室で目覚めるも、自分がなぜそこにいるのかまったく覚えていない。
「新しい記憶が消えるんだ。長い会話をしていると最初に話したことを忘れる…」
体中に刻まれた不可解なタトゥーや、壁中に貼られたポラロイド写真のメモを食い入るように見るレナードの焦燥を共感することが出来ます。
親しげに話しかけてくるテディという男。
だが、彼が映ったポラロイド写真のメモには
「この男を絶対に信用するな」

映画はモノクロとカラーのパートに分かれており、白黒パートは現在から未来に流れる通常の時間軸、カラーパートは未来から過去に遡る時間軸として描かれ、小刻みに時間を遡りながら、二つのパートは時に重なりつつジワジワと全容が解き明かされていきます。
レナードと共に頭をフル回転しながら記憶の断片を追わねばならず、一瞬たりとも画面から目を離すことができません。

レナードは走りながら「俺は、なぜ走っている…?」
レナードは何故か見知らぬ男から追われ、全力で逃げているところで我に返る。
このシーンは特に印象的で、数分しか記憶がたもてない設定に緊張感とリアリティを与えています。
年齢のせいか日常生活で「今自分は何をしにここに来たのか」と、記憶がすっぽぬけてしまう事がよくある私としては共感してしまうシーンです。

レナードは記憶障害のせいで、糖尿病の妻に過剰にインスリンを投与し死なせてしまった。
罪の意識から逃れようと、妻が強盗犯ジョン・Gによって殺害されたという記憶を捏造し、存在しない男に対する復讐心を燃やしている…
刑事のテディや謎の女ナタリーは、レナードの記憶障害を知った上で彼をコントロールし利用していた。
レナードに事の全容を説明するテディ。
だがレナードは自らが捏造した記憶を守るため、テディを殺害し、ポラロイド写真に「この男を絶対に信用するな」とメモする。
メモを見た未来の自分は、延々と存在しないジョン・Gを探す旅を繰り返す…
SFループ作品のような味わいもあります。
辻褄の合わない部分や登場人物の行動に違和感を感じる場面が多数あり、映画のレビューでは様々な考察がなされています。
鍵となる登場人物の名前がサミー テディ ジョンなどのありふれた名前であることから混乱しやすく、何回か視聴しなければ、時系列が整理できません。

レナードは「保険調査員」という役柄に似合わないバッキバキに鍛えられた肉体で、上半身にタトゥがびっしり入ったメインビジュアルはインパクトがあります。
主演のガイ・ピアースは猿顔で表情に乏しいものの、常に目覚めたばかりのような夢と現の境が曖昧になっている男の役が実に似合っています。
記憶の曖昧な男が真実のまわりをぐるぐると周回するストーリーで、妻を殺した事実の核心に近づこうとすると、自身の防衛本能ではじき返されるも、潜在的な罪の意識から逃れる事ができない…
「真実は記憶で創られる」が本作のテーマで、自身の都合の良いように記憶というものは何度も上書きされるのですね。
コンパクトでエッジが効いており、見終わった後にすぐ最初から見返し謎解きをしたくなる魅力があります。










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