観察者

公開 2021年
監督 マイケル・モーハン
公開当時 シドニー・スイーニー(24歳)
冒頭の光の加減で収縮する瞳孔と虹彩の映像など、「視覚と聴覚の映画」と呼びたくなるくらい、人間の皮膚感覚に訴えてくる描写が多い作品です。
終盤のドタバタ復讐劇までは、上質なエロティックサスペンスで、女性の持つ業の部分を巧みに描いており、視覚で捉えて脳で感じる人間の原始的な感覚をクローズアップしているように思います。
ピッパとトーマスは新居での生活に胸を躍らせていた。
しかし、その部屋から向かいに住むカップルの部屋が丸見えであることを発見し、次第に彼らの性生活に興味を抱くようになる…
向かいの部屋に住むセバスチャンとジュリアのカップル。
セバスチャンは超イケメンのカリスマカメラマンでジュリアは元モデルの美女。
ピッパとトーマスは向かいの部屋の様子が丸見えな事を知り、セバスチャンの奔放な性生活をのぞき見するようになる。
舞台のように闇に浮かび上がる他人の生活。彼らは何故か朝でも夜でもカーテンを引かないのです。
他人の生活を俯瞰で見る楽しさにハマる二人。
トーマスとの性生活に不満を感じていたピッパは、セバスチャンの自信にあふれた男性としての魅力に次第に惹かれていく。
ピッパは罪の意識を感じながらも、セバスチャンの生活を覗くことをやめることができない。
セバスチャンはトーマスとはまったく違うタイプの男性で、ピッパはセバスチャンの性的魅力の虜になっていく。
ピッパを演じたシドニー・スイーニーの演技は素晴らしく、彼女でなければ本作の魅力は半減していたかもしれません。
トーマスの前ではセバスチャンに惹かれている事をひた隠し、心の中で暗い欲望を静かに燃やすピッパを眼で静かに演じています。
ピッパはセバスチャンの生活を覗くだけでは満たされなくなり、彼らの生活に介入し始めるようになる。
その結果、思いもよらぬ悲劇的な結果を招くことになった…
パートナーを亡くし、バーで悲しみに暮れるセバスチャン。
ピッパは罪悪感を感じながらも、バーで彼の誘いを待つ。
ピッパがついにセバスチャンと対面するシーンは、本作で最も印象的です。
遠くから見るだけだった憧れの存在が、目の前で自分だけを見てくれている快感…
ピッパの罪の意識に捉われながらも、恍惚とした表情は「推し」を目の前にした女性のそれに見えます。
セバスチャンはワイルドでありながら教養もあり、一瞬で女性を虜にする抗えない魅力があるのです。
「君を撮影したいと言ったら、変かな…?」
二人はセバスチャンの部屋へ向かう。
服を脱ぐことをためらうピッパに
「自然な感じにしよう…」
自らも服を脱ぎ全裸になる。
まさにプロのカメラマンらしい「脱がせ屋」とも言うべきテクニック。
ピッパとセバスチャンは一線を越えてしまう。
ここまでの展開は息を呑むほどの緊張感がある大人のサスペンスでしたが、終盤の展開は「土曜サスペンス劇場」のような陳腐でドタバタな復讐劇の展開となります。
視聴者の満足度を上げるためか、最後に無理やりどんでん返し系に持っていった感があり、前半のままのトーンで静かに締めくくった方が良かったように思います。
やはり本作はシドニー・スイーニーを見る映画ですね。
大胆なヌードも披露するなど体当たりの演技で、見終わった後彼女の罪悪感に震える虚ろな瞳が強く印象に残ります。
ピッパはセバスチャンに対する好奇心をトーマスに隠すため、正義感を振りかざして見せたりと自分自身をも欺こうとしているように見えるのです。
トーマスが自殺した後も、丁寧に装いガブリエルの写真展に向かったりと、自分ではどうにも抑えられない衝動に駆られる様子が人間的ですね。
本作はAmazonprime限定配信ですが、ピッパが眼科医でトーマスが音響技術者であることからか、視覚と聴覚に刺さる映像と音響で、映画館の大画面で見てみたいものです。
後味の悪い終わり方で、SNSでの個人情報漏洩問題に警鐘を鳴らす意図があるのかもしれませんが、私にとっては女性の業が印象に残る作品でした。
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