美女缶

2024年11月18日

公開 2003年
監督 筧昌也
出演 藤川俊生 古居亜希子


この映画について考える時、私は自分の中の生々しい欲望と向き合う事になります。

30代の頃、スカパーの「チャンネルNECO」でひっそりと放送されていたのを偶然見て以来、現在に至るまで頭の片隅に残り続け、日常生活の中で自分には絶対に手の届かない美男子と邂逅した時などに何故か思い出してしまうのです。
タイトルに偽りなし、缶に入った液体から美女が生まれ、そのまま主人公の恋人になるというストーリーです。

時間とお金をかけて女性を口説く手間を一切省き、労せずして美女を我が物にできるという、男性の夢を具現化したような設定ではないでしょうか。

健太郎は恋人マリと同棲中だったが、倦怠期を迎えた二人は別れる事に。
引っ越し先のアパートの隣に住む男性の部屋から次々に現れる美女に興味を持った健太郎は、隙を見て彼が持っている「美女缶」の一つを盗み出す。
説明書に従って美女を出現させた健太郎は、美女ユキとの同棲生活を始める


美女缶の説明DVDには、
step1. 缶の上面の記入欄に、美女から呼ばれたい名前を記入する。
step 2. 缶詰の中のピンクの液体を40度のお風呂の湯の中にゆっくりと入れ、必ず蓋をする。
step 3. 扉を閉め、30分間風呂の外で待つ。

生まれてくる美女は無条件で生み主が「恋人」であることを信じる。
美女缶には品質保証期限が記載されており、それが過ぎると美女は消滅してしまう。

説明DVDには「美女が生まれてくる間、部屋の掃除をしたり、エッチなものを隠すなど美女を受け入れる準備をしましょう」「安易な性の対象だけにせず、心の通った日常生活を心がけ、素敵な美女ライフを送りましょう」などディテールも細かく、美女が生まれるまでの緊張感を主人公と共感する事ができます。

本作は61分とコンパクトで、美女が生まれるまでを前半とするならば、後半は健太郎とユキの甘く切なく刹那的な恋愛模様が描かれ、勢いのある前半と比べ失速する感があるものの、前半のインパクトの強さで後半はほとんど記憶にないほどです。

実は健太郎も、元カノのマリによって生みだされた彼氏だった…
ユキと健太郎は共に消費期限を迎え、この世から消滅する。

本作のオチには賛否両論あるようですが、低予算映画ゆえか二人が実際どのような形で消滅するのかなどは描かれず、見る者の想像に委ねる部分があります。

監督の筧昌也は日本芸術大学映画学科の卒業制作として作った作品だそうですが、ある意味日本映画史に残る作品と言えるのではないでしょうか。
日常の中の非日常とも言うべき日本における「4畳半SF」の秀作で、この設定だけで大勝利であり、発明と言えます。

この映画を見たほとんどの女性が考えたと思われる、「生まれてくるのが美男だったらどうするか…」

映画を初めて見た30代の頃は「ルックスが良いだけの男性では魅力に欠ける」と思ったものです。

私が好きな結婚相談所のYouTubeで、男女がパートナーを探す場合、男性の場合は女性のルックスと年齢が最優先で学歴や職業などはさほど気にも留めないのに対し、女性の場合は男性のルックスよりも、学歴や年収、家族構成などを重視するそうです。
性差の点から考えても、本作は男女逆では、複雑なお話になりそうですね。

哀しい事に、50代になった現在では「ルックスが良いだけの若い男性と同棲するのも悪く無い」と思うようになったのです。
年々浅ましく、下品なおばさんになっていく自分が悲しくなる今日この頃です。