ジギル&ハイド

2024年5月31日

公開 1996年
監督 スティーブン・フリアース
公開当時 ジュリア・ロバーツ(29歳) ジョン・マルコヴィッチ(43歳)

「ジギル&ハイド」を題材とした映画は数多く制作されていますが、大抵は二重人格がもたらす怪物性に焦点を当てている作品が多く、本作のような繊細で抒情的な作風は無かったかもしれません。

いつもの明るいキャラクターを封印したジュリア・ロバーツ抑えた演技も素晴らしいですが、やはりこの映画はジョン・マルコヴィッチを見る作品と言えるのではないでしょうか。

ジョン・マルコヴィッチはクセのある演技派俳優で、ユーモラスで紳士的かつ変態的でワイルドでもある不思議な存在感がありますが、本作ではまさに彼の持つ二つの要素を二つの人格に割っており、優しく紳士的なジギル博士と野性的なハイドを見事に演じ分けています。

19世紀末のイギリス。
ジギル博士の豪邸で奉公人として働き始めたメアリーは、優しい博士を次第に信用するようになる。ところがハイドと名乗る凶暴な男が博士の助手として屋敷に出入りするようになり、事態は不穏な方向へと動き始める…

18世紀ロンドンの霧が立ち込める陰鬱な雰囲気と、血なまぐさい残虐描写や暗い路地裏など、緊張感のあるサスペンスでありながらどこか文学的な雰囲気があります。

ジギル博士の屋敷で住み込みのメイドとして働くメアリーは、子供の頃父親から虐待を受けていた。
メアリーは優しく紳士的なジギル博士に過去のトラウマを打ち明け、徐々に心を寄せるようになる。

ある日からジギル博士の「助手」ハイドが屋敷に出入りするようになる。

メアリーは野性的で直情的なハイドに惹かれつつ、彼の正体に気付き始める…

マルコヴィッチが演じるジギルとハイドはどちらも魅力的で、二人の間で揺れるメアリーの心情を共感する事ができます。
紳士的で父性を思わせるようなジギル博士とは真逆の、ハイドの爬虫類を思わせるギラギラした眼とセクハラ全開の行動、グイグイくる押しの強さに純真なメアリーは引きずり込まれるように惹かれていくのです。
メアリーは理性ではジギル博士を、本能ではハイドを愛しているように見えます。

MARY REILLY, Julia Roberts, 1996, (c) TriStar

ジョン・マルコヴィッチを知ったのは1988年「危険な関係」で、彼は狙った女は必ず落とすプレイボーイ、ヴァルモン子爵を演じていましたが、そのセクシーさたるや画面から駄々洩れるフェロモンに私はすっかり虜になり、それから彼の出演作はほとんど見ていると思います。
本作の公開時彼は43歳で、前髪は後退し下腹も緩んでいるおっさんにも関わらず、その色気は少しも失われていません。
若く完璧なルックスでもまったく色気を感じない俳優も存在するというのに、彼の持つ色気は言葉で説明できない何か本能に訴えてくるものがあるのです。

私の中で彼と同じカテゴリーの俳優、ダニエル・クレイグ、ミッキー・ローク、火野正平、おっさんにも関わらず彼らの放つ凄まじい「色気」の正体とは一体何なのか…

日夜考え続けた私は、ある答えにたどり着いたのです。
それは「殺気」です。

数々の修羅場を潜り抜けギラギラした内面を隠し持ち、穏やかな紳士の皮を被ってはいるものの、一皮むけば野生の本性が露になる状態が殺気に裏付けられた「色気」の正体ではないでしょうか。
彼らには生物学上のオスとしての戦いに常に勝利してきた自信と余裕を感じるのです。

メアリーの役にはウィノナ・ライダーの名も挙がっていたそうなのですが、ジュリア・ロバーツの現代的で肉感的で無いルックスには素朴さがあり、ハイドとプラトニックな関係性に留まる設定に説得力を与えていたと思います。

上流階級のジギル博士と貧しい奉公人のメアリーの身分違いの恋など、ホラー要素よりも恋愛要素が色濃く語られており、プラトニックな愛が見る者を切なくさせます。
出演者の名演もあり、ロマンチックホラーの名作と言えるのではないでしょうか。

今日も無事に家に帰って午後ローを見れていることに感謝😌です。

総合評価☆☆☆☆☆
ストーリー★★★★
流し見許容度★
午後ロー親和性★★★★