モガディシュ　脱出までの１４日間

2022年7月22日2023年4月26日

午後のロードショー大好きなパート主婦です。
今回は最近見た映画モガディシュ　脱出までの１４日間の感想です。

公開　２０２１年
監督　リュ・スンワン
出演　キム・ユンソク　ホ・ジュノ　チョ・インソン　ク・ギョンファ　ソ・イェジ

この映画は２０２１年韓国映画興行収入№１を記録、国内の数々の賞を受賞し、海外でも高い評価を受けているのですね。

朝鮮戦争停戦後、南北に分断され互いに同じ言葉を話す同じ民族でありながら、政治的な理由で敵対せざるを得ない、このような特殊な状況におかれている民族というのは他に存在するのでしょうか。

ソマリアの首都モガディシュ。ソウル五輪後の１９９０年、モガディシュで韓国大使を務めるハン(キム・ユンソク)は、国連加盟を目指して多くの投票権を持つアフリカ諸国へのロビー活動を行っていた。一方、韓国よりも早くアフリカ諸国との外交を始めていた北朝鮮のリム大使(ホ・ジュノ)も国連加盟のために奔走し、両国間の妨害工作や情報操作はエスカレートしていた。

そんなある日、現政権に不満を持つ反乱軍による内戦が勃発。たちまちモガディシュの街は無法地帯と化し大混乱に陥る。

暴徒に大使館を奪われた北朝鮮のリム大使は、当初中国大使館に助けを求めるも、中国大使館は反乱軍に完全に包囲され近付くことさえできない。
国家として敵対する韓国大使館に助けを求める決意をする。

ソマリアの少年兵が、北朝鮮大使一行に機関銃を向け、死んだふりをすると笑いだすところはやはり武装はしていても子供なんだなと思わせるシーンです。
こういった細部の描写も映画の臨場感を際立たせます。
幼い子供連れであることから、人道的な見地で渋々、北朝鮮大使一行を受け入れるハン大使。

韓国大使館で、韓国と北朝鮮、両チームが食事をするシーンは、互いに同じ民族でありながら政治的な壁が立ちふさがり敵対せざるを得ない微妙な距離感を表現していますね。
最初は互いの腹を探り合っていた両者も、一つの家族のように共に食事をすることで警戒心が徐々に解けていく…

韓国映画の優れている所は、必ず随所にコメディパートを挟み、見る者の共感を引っ張ることですね。
登場人物に感情移入させる手法は随一と言えます。

韓国のハン大使と北朝鮮のリム大使は互いに大使である以前に家族を持つ父親、生きて家族とともにソマリアを脱出したいという思いは同じなのです。

「食事をしにここまで来たわけでは無いでしょう。」

韓国と北朝鮮、互いに敵対する両者だったが、ソマリア脱出のため計らずも協力することになる。

両者の話し合いの結果、互いの外交ルートをフルに使い、韓国大使グループはイタリア大使館へ　北朝鮮大使グループはエジプト大使館へ救助を求めることになる。　どちらか脱出への活路が見いだされた方に合流する…

共通の敵ができて初めて共闘することができる両者。

イタリア大使館に赴いたハン大使はイタリア大使から、北朝鮮は国交が無いため赤十字のヘリに乗せる事は出来ないと告げられる。
ハン大使は、彼らはすでに韓国に転向していると嘘をつき何とか全員の席を確保する。

イタリア大使館に集合する約束の時間は午後４時。
反乱軍の攻撃を避けるため、イスラムの礼拝が始まる時間に合わせて大使館に向け車を出発させる。
刻一刻と過ぎる時間、四方八方からの激しい銃撃の中を、本や砂袋で防弾仕様を施した車で大使館に向かう場面は、まさに修羅場、手に汗握る圧巻の展開です。
韓国映画のアクションやカーチェイスのレベルはすでにハリウッドを超えていると言えますね。このラスト十数分のカーチェイスは映画史に残ると言ってもよいほどの迫力でした。

何とかイタリア大使館の前までたどり着いた時にハン大使が叫ぶ「We are Korean!」も胸が熱くなります。

赤十字の飛行機に無事に乗ることができた両大使一行なのですが、空港では韓国と北朝鮮、それぞれの政府関係者が待ちかまえていた。
イタリア大使に北朝鮮大使一行が韓国に転向したと嘘をついたハン大使の言葉は、韓国当局にも伝わっており、転向者を韓国に回収しようという政府関係者の思惑があった。
このまま空港に降りれば、北朝鮮大使一行は韓国政府の管理下に置かれてしまう…

ハン大使は飛行機の中で「ここでお別れすることにしましょう。」両国大使一行は硬い別れの握手を交わす。

空港に降り立った両者は、何事も無かったように互いの政府関係者の車に乗り込む。

右と左に別れ、互いに目を合わすことなく別れる韓国と北朝鮮の一行。
その複雑で切ない心情を、名優二人が見事に沈黙で演じていますね。

韓国と北朝鮮の大使を演じた、キム・ユンソクとホ・ジュノは共に韓国を代表する名優ですね。
ホ・ジュノはテレビドラマの「朱蒙」や「オールイン」など数々の名作に出演していますが、私は映画「シルミド」での厳しいけれども部下思いの教官の役が印象に残っています。

キム・ユンソクは「チェイサー」や「哀しき獣」「海にかかる霧」などの数々の名作に出演していますね。
彼の出演している映画をほとんど見ていることに気が付きました。
役柄によって体形や雰囲気をガラリと変える事ができる、演技の振り幅の広い役者と言えますね。
外見は普通のおじさんなのに、なぜか男の色気を感じてしまいます。
何てことない普通のおじさんをとびきりかっこよく描くのも韓国映画の特徴ですね。
監督のキム・スンワンはまだ４８歳なのですね。映像やストーリーの重厚感などは映画の巨匠と言われるような監督にも引けをとっていません。
「生き残るための３つの取引」「ベテラン」など、スピード感のある韓国ノワール映画を製作していますが、この映画で間違いなく世界から注目される監督になったのではないでしょうか。モロッコでオールロケーションをしたというこの映画は、作り手のとてつもない熱量を感じます。