ベルサイユのばら

公開 1979年
監督 ジャック・ドゥミ
公開当時 カトリオーナ・マッコール(25歳)


言わずと知れた少女漫画の名作の初実写化ということで、テレビで特集番組が放送されるなど、当時は大変な話題作でした。

フランス人キャストによる本場ベルサイユ宮殿を舞台とした映画化で、弥が上にも期待を煽る作品でしたが、原作とのあまりの乖離にがっかりしたのを覚えています。

原作のような登場人物の苦悩や葛藤よりも、恋愛とエロに寄った感があり「ベルばら」をフランス流に解釈するとこうなるという事でしょうか。

「劇的な、劇的な、春です。レッド」
カトリオーナ・マッコールを起用した資生堂のテレビCMが繰り返し流れていたのを覚えています。 

主演のカトリオーナ・マッコールは資生堂がスポンサーに付いているためか、劇中で真っ赤な口紅ベッタリの派手なメイクで、原作オスカルの中性的で凛々しいイメージとは程遠い印象がありました。

オスカルが自室の鏡の前で裸になり何故か悶えたりと無駄にエロいシーンが多く、この映画の監督は原作をちゃんと読んだのか疑いたくなってしまいます。

アンドレ役の俳優もビジュアルはそこそこ寄せているものの、オスカルの裸をドアの隙間からジト~ッと覗いていたりとさながら「スケベな幼馴染」といった様相を呈しており、オスカルとの身分の違いにもがき苦しみながらも真摯に愛を貫く原作アンドレの面影はみじんもありません。

二人が身分の違いも何のその、あっさりと男女の関係になるのもフランス的と言えるかもしれません。

オスカルがバスティーユ牢獄の前で銃弾に倒れ死ぬ原作と違い、実写では混乱の中離ればなれになったアンドレをオスカルが民衆をかき分け必死で探すシーンで幕を閉じます。
フランス人の価値観で日本人的な繊細な恋愛模様を描くのは難しかったと見え、二人の苦悩や葛藤をすっ飛ばし、「男女の恋愛とはこういうもの」といったところに落としこんでいる感があります。 

当時、子供ながらに映画を見て感じたのは、「本場フランスであってもベルばらを実写化するのは不可能だ」という事です。
オスカルのような非現実的なキャラクターを実写化した結果、どう見てもコスプレ感満載でおふざけにしか見えませんでした。

やはりこの世界観を3次元に落としこむのは不可能に近く、宝塚歌劇で舞台化され大成功を収めた事からもわかるように2.5次元が限界なのでしょうね。

1979年に放送された アニメ版「ベルサイユのばら」は作画も主題歌も吹き替えも何もかも秀逸でアニメ化の傑作と言えます。
私は原作の激情型のオスカルよりアニメ版のクールなオスカルが好きで、原作の素晴らしさをより引き立て、さらにキャラクターをより深みのある魅力的なキャラクターに進化させた製作者の意気込みを感じます。

多くの日本人は、フランス革命やマリーアントワネットの悲劇的な運命などすべて「ベルばら」で学んだと言っても過言ではありません。
漫画に影響されフランスのベルサイユ宮殿を訪れた人も多く、かくいう私もオスカル様の幻影を求めて2度もベルサイユ宮殿に足を運んでしまいました。

作者の池田理代子のインタビューを交えた特集番組で「我々フランス人は、あなたの漫画でフランス史を学んだ」と称賛されるほど現地でも親しまれているのですね。
絶大な日本サブカルチャー人気があるフランスですが「ベルばら」はフランスにおける漫画、アニメブームの先駆けだったのではないでしょうか。
改めて架空の人物を登場させフランス史をエンターテイメントに昇華させた作者の偉大さを感じずにはいられません。