エンティティ/霊体

公開 1981年
監督 シドニー・J・ヒューリー
公開当時 バーバラ・ハーシー(33歳)
小学生の頃「木曜洋画劇場」で放送され、シングルマザーの女性が見えない霊に繰り返しレイプされるというショッキングな内容のためか強烈に印象に残っています。
当時は子供だったためか、「見えない霊」に翻弄される主人公カーラの滑稽な一人芝居にしか見えず「何ㇲかこれ?」とばかりに爆笑したのを覚えています。
1974年にロサンゼルス在住の女性が実際に体験した実話をベースに制作されており、今改めて考えると背筋が凍るほど恐ろしい出来事ですね。

三人の子供を持つシングルマザーのカーラ。
ある日、風呂上がりでくつろいでいたカーラは、姿の見えない何者かにベッドに押さえつけられレイプされる。
エロティックホラーとも言える作品で、現在ではあり得ない事ですが、カーラの裸はもちろん、かなり際どいシーンも修正無しで放送されていました。
この時代の特殊効果のレベルを考えると、序盤の霊に襲われる時の臨場感あふれるシーンはすべて主演のバーバーラ・ハーシーによる演技力で賄っていると思われます。
襲われた時の表情、体のねじれ具合といい、迫真の一人芝居で「ガラスの仮面」の北島マヤにも劣らぬ天才女優ですね。

カーラは大学病院の精神科医を訪ね、霊からの暴行によって体に残った歯形やアザを見せ、数々の恐怖体験を話すものの、一連の事件は幻覚であり、ヒステリーからくる自傷行為では無いかと一蹴される。
霊による暴行を誰にも信じてもらえず、苦悩するカーラ。
運転中に車のブレーキペダルが効かなくなるなど、霊による嫌がらせはエスカレートする。
見えない何者かに執拗に嫌がらせを受ける展開は、2019年の映画「透明人間」を彷彿とさせます。

考えた末、カーラは心霊現象を研究するクーリー博士に助けを求める。
クーリー博士は霊をおびき寄せ、液体ヘリウムで霊を凍結させ捕らえる作戦を考える。
霊体を凍結させる事には成功するものの、霊体は氷を破壊して逃亡してしまう。
家に戻ったカーラの耳元で低い男の声が囁いた。
「帰って来たな、メスが…」
何故か不敵な笑みを浮かべるカーラ。
映画はこのシーンで幕を閉じます。
結局霊の正体は何だったのか、なぜ彼らが執拗にカーラを狙うのかは解明されずに終わるのです。

実体の無い霊を凍結させるとは、あまりに斬新でぶっ飛んだ作戦ですね。
凍結し人間の男性の形に固まった霊がなぜかとても間抜けで、私はここでも大爆笑してしまいました。
この映画の最大の見せ場は何といっても、見えない手に弄ばれるカーラの肉体ではないでしょうか。
透明な手に触られるカーラの皮膚が、へこんだり元に戻ったりを繰り返すもので、私もこのシーンは強烈に印象に残っています。
このシーンの製作には、カーラのダミーボディを作り、ベッドの下からスタッフがカーラの乳房が触られたように吸盤でへこませていたそうです。
この時のカーラのボディが造り物だったとは驚きで、少しも不自然さを感じませんでした。
このダミーボディの製作には1000万円ほどかかっているそうで、制作者の情熱が伝わってきます。
性被害を受けた女性に対する社会の無慈悲を案に訴えたかったのか、マニアックなエロ映画を撮りたかったのか、制作者の意図する所はわかりませんが、意外にも本作はマーティン・スコセッシやクエンティン・タランティーノなど映画界の巨匠とも言える監督たちから絶大な高評価を得ているようです。

当時映画を地上波で放送する番組では「解説者」が存在し、放送の最初と最後に登場し、映画のこぼれ話などを披露していたものです。
「木曜洋画劇場」解説者の木村奈保子は中でも異色な存在で、ワンレンに立ち上げた前髪、肩パットのガッツリ入ったバブル全盛期のОLといったいで立ちで、「…さまざまな男や女を相手に描かれる性の遍歴がより過激に大胆に描かれて行きます。快楽を求める女の願望、さてそれはどんな結末をむかえるのでしょうか…」といった具合に他の男性解説者とは一線を画す、視聴者をハッとさせる攻めた解説をしていました。
木村氏によるとカーラの最後の笑みは「彼女はもう恐れる事を辞め、悪霊と真正面から戦う覚悟を決めたから」なのだそうです。
ラストの決まり文句「あなたのハートには、何が残りましたか?」
小学生だった私のハートには、全く怖くない笑えるホラー映画が存在するという発見と、「一体何を見せられたのだろう」という釈然としない感情が残ったのでした。
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