楢山節考
午後のロードショー大好きなパート主婦です。
午後ローがお休みの年末年始は、今まで見た中で印象に残った映画について語りたいと思います。
公開 1983年
監督 今村昌平
公開当時 緒形拳46歳 坂本スミ子47歳 あき竹城36歳 倍賞美津子37歳 左とん平46歳
死ぬまでに見るべき映画があるとするなら、間違いなくこの作品はそれに値すると思います。
私が初めてこの映画を見たのは中学生の時だったのですが、夜9時からのゴールデンタイムにほぼノーカットで地上波放送されたのを覚えています。
テレビの規制が厳しくなった現在では考えられないほど、ショッキングな内容でした。
人間のむき出しの本能が映像化された作品であると言えます。
先日亡くなられたあき竹城さんが出演されていたこともあり、久しぶりに鑑賞したのですが、これほどネットなどで過激な描写を見慣れた現在でも衝撃的で心を揺さぶるものがあります。
全編に渡って寒々しい信州の農村が舞台のためか、私は冬になるとこの映画を見たくなるのです。
12月半ばになって急激に気温が低下し真冬の厳しい寒さが続いている今日この頃ですが、寒さというのはなんと人の心を尖らせ、ゆとりを奪うものなのでしょうか。
寒さに飢えが加わった彼らの暮らしの過酷さは、想像に余りあります。
山を神として崇め、自然と共に生きる村人たち。
日照時間が短い山間地帯の農村ゆえか作物の収穫量が少なく、村は慢性的な食糧不足の状態。
村には厳然たる3つの掟があった。
「結婚し、子孫を残せるのは長男だけである」
「他家から食料を盗むのは重罪である」
「齢70を迎えた老人は『楢山参り』に出なくてはならない」
長男以外の兄弟は、単なる労働力として扱われ、結婚し所帯を持つことは許されない。
女性は仲介者を介して、幼いうちから人買いに売られる。
「生まれてくる子が姫ならいいのお。姫なら売れるしの」
辰平の長男、けさ吉が恋人の松やんに事も無げに言うこの言葉。
極貧の農村に生きる者の日常であり、あくまで労働力と生産性を重視する、貧しい村の慣習…
辰平の家に上がり込んだ松やんは、密かに食料を盗み、実家に渡していた。
食料を盗むのは、村では極刑に値する重罪。
「楢山様に謝ってもらう」
松やんの実家を襲う村人たち。
家族は全員生き埋め、残った食料は村人全員で山分けする。
左とん平演じる辰平の弟利助は、不潔さゆえ村中の人間から忌み嫌われている。
この役を演じるのは、かなりの勇気が必要だったのではないでしょうか。
利助の出演シーンは、この映画におけるコメディパートの要素があると思いますが、私は彼の存在が村の闇を浮き彫りにしていると思うのです。
村の閉塞感ゆえ鬱屈したエネルギーを吐き出す場所が無く、もがき苦しむ青年の姿をありのまま描いています。
彼の立場では女性と関係を持つことは難しく、欲望の処理に窮し近所の雌犬相手に欲求を満たす。
見るにみかねたおりんは、近所に住む老婆おかねに、利助の夜の相手をしてやってくれないかと頼む。
利助と清川虹子演じるおかねが一夜を共にするシーンは、映画史に残るショッキングなシーンと言えます。
当時中学生だった私は、頭を殴られたような衝撃をうけました。
辰平の後妻として入った玉やんは、明るく快活で気立て良い女性だった。
長男に嫁を貰ったおりんは、安心して楢山参りの支度をし始める。
「わしも今年は山へ行くだ」
まだ早い、という家族の言葉をよそに、おりんの決心は硬かった。
厳しい村の掟には、決して背くことはできない。
おりんを決意させたのは、村の同調圧力によるものなのでしょうか。
「おりんさんは、年寄りの鑑だ…」
村人が仕切る「楢山参りの儀式」
「山に入ったら話してはならない」
「家を出る所を誰にも見られてはならない」
「山から帰る時は、決して振り向かぬこと」
おりんは当年70歳ながら矍鑠としており、丈夫な歯を持っていた。
村では労働力にならなくなった年寄りが丈夫な歯を持っている事、すなわち一人前に食べるという事は恥であり、忌み嫌われる事であった。
窯に自らの前歯を打ち付け、歯を折るおりんの姿は凄まじいものがあります。
人と言うのは、生産性が衰えた人間に対してなぜこうも冷たいのでしょうか。
おりんのような、農業や生活の知識が蓄積している人物を切り捨てるのは、村にとっても大きな損失だというのに…
おりんを背におぶい、黙々と山道を上がる辰平。
「おれもあと25年すれば、ここへ行くよ」
白骨が散乱する楢山の山頂。雪が舞い始める。
離れがたい気持ちを振り切って、おりんを降ろす辰平。
そのまま掟通り、振り向かずにその場を立ち去る。
白骨が散乱する山頂で、手を合わせて祈るおりんの姿は神々しくさえあります。
離れがたさから行きつ戻りつする辰平とおりんの最後の道行は、そこだけ異次元に迷い込んだかのような不思議な時間が流れているのです。
同じように楢山参りに来ていた親子。
「御山に行ってくれ!」
脚にすがりつく父親を、容赦なく谷底へ蹴り落とす。
まさにこの世の地獄、修羅の世界。
普段心の奥底に隠してはいるものの、誰しもが持つ醜い部分をえぐりだされれるような凄まじい場面です。
この映画は1983年のカンヌ映画祭で最高賞のパルムドールを受賞しました。
今村昌平監督は村の風習を是とも非とも言及することなく、見る者に問いを投げかけているように思います。
撮影を指揮する今村昌平監督の、醒めたまなざしが印象に残っています。
随所で動物や昆虫の交尾や捕食のシーンが挿入されますが、これは人間も動物も生きるために食し繁殖する点では何ら変わらない、という事でしょうか。
坂本スミ子は当時47歳であり、息子役の緒形拳とほぼ同い年なのですね。
彼女は役作りのため、監督の指示で前歯を4本抜いたのだそうです。なんというプロ根性…
今村昌平監督は当初おりん役を杉村春子にオファーしたものの断られたため、最終的に坂本スミ子に決定したのだそうです。
坂本スミ子、あき竹城、倍賞美津子の女優陣の溢れる生命力と色気、彼女たちの体当たりの演技が映画に凄みと深みを与えていると言えます。
まさに彼女たちを見る映画と言っても過言ではありません。
目を背けたくなるほど衝撃的で、人間の生々しい欲望と醜さを見せつけられるのですが、下品さはみじんも感じません。
日本でも、また世界でも二度とこのような映画は作れないでしょうね。
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