公開 2017年
監督 ジョシュ・サフディ ペニー・サフディ
公開当時 ロバート・パティンソン(30歳)
上映時間 99分
「起転転転」といった展開で先が全く読めず、予定調和一切無しで、ありがちなクライムサスペンスとは一線を画す秀作という印象を受けました。
「弟を刑務所から救い出すための金を工面しようと奔走する兄」という縦軸のストーリーはあるものの、計画性の無さから脱線を繰り返し、最終的に暴走の目的が何だったのか、当の本人にすら曖昧になっているような危うさがあります。
ストーリーと呼べる構成は無く、ひたすら思慮浅い若者の暴走を傍で見ているようなリアリティと緊張感があり、ニューヨークの最下層に生きる若者の「あるツイてない一日」を切り取ったような作品と言えるかもしれません。

兄コニーと、知的障害を持つ弟ニック。
コニーは現在の暮らしから抜け出す資金を手に入れるため、弟と共に銀行強盗を決行する。
黒人の顔のゴムマスクを被り、銀行員に金を出すよう脅すコニー。
金を強奪し銀行を出るも、すぐに通報され警察に追われる。
コニーは逃げ切るものの、ニックは逮捕されてしまう。
ニックの保釈金を工面するため奔走するコニーの「ある一夜」が始まる。
「お前はスゴい奴だ! お前無しでやり遂げられたと思うか⁉」
コニーは思慮の浅さから、弟の障害に対する理解が足りていなかったのかもしれません。
自ら犯罪に手を染め生きてきたせいか、ニックを犯罪に巻き込むことで自信をつけさせ「男にしてやる」と思い込んでおり、彼なりの愛情と言えます。
二人が銀行強盗をする時に被っていた黒人のゴムマスクはパーティグッズなどで安価に購入できるものなのでしょうが、妙にリアルで、犯罪に使われた事を考えると複雑な心境になります。

逮捕されたニックは留置所で暴行を受け怪我をする。
コニーは病院に忍び込み、警備の眼を盗んでニックを連れ出す。
コニーは弟の怪我を口実に、バスで偶然乗り合わせた女性のアパートにまんまと転がり込む。
「弟に何か食わせたい。 何か無いか…?」
コニーにはジゴロ的な側面があり、一応女性の前では紳士的に振るまう事で好感を与える術を熟知しているようで、少女クリスタルもそんな彼に懐柔され良いように利用されてしまうのです。
「俺の前世は犬だった。 だから犬に好かれる…」
クリスタルとすっかり打ち解け、ソファに座ってテレビを見ていると、なんと夜のニュースに指名手配犯として自分の写真が。
クリスタルが気付く前に、彼女にキスをし、抱きかかえて寝室に行く。
コニーは基本的に無計画で行き当たりばったりの割に、随所で妙に機転が効いて小賢い所があり、彼のこの能力も暴走を助長している感があります。
少女クリスタルも16歳という年齢の割には幼く見え、どこの誰とも知らない男と簡単に打ち解けて心を許し懐柔されてしまうなど絶妙に「頭の悪い」感じが可愛く、彼女とのシークエンスはややコミカルでどっちに転ぶかわからない揺らぎがあり、何とも言えない味わいがあります。

ニックだと思い病院から連れ出した男は別人だった。
まさかの「人違い」。
男は刑務所から出所後、麻薬を巡り仲間とトラブルに陥っていた。
男は遊園地に大金を隠したとほのめかし、コニーは分け前をもらう条件で共に遊園地に向かう。
が、金は見つからず、警備員が通報。
コニーはさらなる無計画な逃走を続け、結果あっけなく逮捕される。
フィクションの世界と違い、何一つ計画通りに進まない素人臭い犯行にリアリティを感じます。
コニーの証言で保釈されるニック。
「コニーも君も、自分の居るべき場所に落ち着いた…」
映画はニックが障害者支援プログラムに参加する場面で終わりますが、事態を消化しきれていないニックの表情が印象に残ります。

ロバート・パティンソンは極太眉に若干しゃくれたアゴで、正統派イケメンではないものの、何とも言えない色気があり、彼の妙に澄んだ目でじっと見つめられ、いいように操られる女性たちに共感する事ができます。
コニーのような粗暴なキャラを演じても、隠し切れない英国俳優の気品があり、常に視線が宙を彷徨い頭が良いのか悪いのか捉えどころの無い演技に俳優としてのセンスを感じます。
近年では「TENET 」「ミッキー17」「オデュッセイア」などの話題作に次々と出演し、2026年現在世界が最も注目する俳優と言えるのではないでしょうか。

このジャンルのコンパクトなクライムサスペンスの場合、内容がスカスカなのを誤魔化すため、ノリのいい音楽でスタイリッシュにまとめる手法は良く見られますが、本作はある若者の暴走をひたすら追いかけたようなシンプルな作品ながら、骨太で心にズシンと響くような重量感があります。
壁を金属で引っ搔くような効果音も緊張感と焦燥感を煽ります。
全く先の読めない展開ながら、細かい部分の伏線回収はきちんとなされており、制作者によってコントロールされた混沌と言えます。
見終わった後の観客の行き場の無い気持ちも計算されているのではないでしょうか。
タイトルの「グッド・タイム」が何を意味するのか、見終わったあと暫し考えてしまいました。

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