フォーカス

2024年3月5日2024年3月7日

午後のロードショー大好きなパート主婦です。
今回は午後ロー２月２０日放送フォーカスの感想です。
公開　２０１５年
監督　ジョン・レクア
公開当時　ウィル・スミス（４７歳）　マーゴット・ロビー（２５歳）

この映画の監修を担当した「世界最高のスリ師」と言われるアポロ・ロビンス氏の実演をYouTubeで見ましたが、これは「スリ」というよりは「手品」ですね。
相手に触れたか触れないかの接触で次々と財布や時計を奪ってゆくのです。
この映画のキャッチコピーは「視線を盗め」で、注意力を逸らせる事で相手を騙すテクニックを行動心理学に基づいて描いているそうなのですが、映画を見る限りそれが生かされているとは思えません。

ウィル・スミス演じるニッキーはスマートに会話をしながら指輪や財布を「いつの間にか」盗んでいくのですが、映像ゆえか臨場感が無く手腕に説得力がまるでありません。

チーム戦でスリを働く犯罪集団を率いるニッキー。
通行人から財布や時計、宝石などを地道に摺っていく様子はショボい「オーシャンズ１１」という感じです。
「薄利多売主義さ。派手な商売はしない」

新米詐欺師ジェスにスリの技を伝授するニッキー。
指輪や財布を次々と抜き取って見せる技にジェスは「すごい！　どうやったの⁉」
映像は編集でどうとでもなるため、スリの凄技に説得力が無く、このシーンは女を口説くためにマジックを披露するチャラい男にしか見えません。

ニッキーとジェスは師弟となるのですが、あっという間に男女の関係になるのです。
もう少し溜めが欲しいところですね。
「君は稀に見る逸材だ。天才詐欺師だよ…」
これは、褒めているつもりでしょうか。
アメフト会場での賭けのシーンは予想外の展開でしたが、色々無理がありますね。
大掛かりな詐欺に成功したニッキーは１００万ドルを手にする。

このシーンからニッキーは薄利多売の「スリ」から大金を稼ぐ「詐欺師」へと突然ステップアップします。

ニッキーはジェスに突然別れを切り出す。
一流の詐欺師として、女性に心から惚れてしまうのは禁物という思いからだそうです。
詐欺師というのはこんなにもストイックな職業なのですね。
３年後。

モーターレースチームのオーナーと組み、大掛かりな詐欺の仕事を請け負うことになったニッキー。
オーナーの傍らには、なんとジェスの姿が…。

後半からは話が複雑になりテンポが悪く、前半よりももっとグダグダになります。

ジェスはニッキーを嫉妬させるため、オーナーの恋人のフリをしており、一度も男女の関係を持った事は無かった。
関係を迫るオーナーに対し「生理中だから…」と断り続けていた、というのです。
これはお粗末すぎて失笑してしまいました。
この映画はおしゃれなデートムービーだと思いますが、このシーンには女性なら誰しもげんなりしたのでないでしょうか。

最終的にニッキーの父親の大詐欺師まで巻き込んで、作戦は成功したものの、ニッキーとジェスは金を捨て愛に生きる事を決意する…

すったもんだの末、実は互いに本気で愛し合っていたという実につまらないオチで「何スかこれ？」と言いたくなってしまいます。
天才詐欺師同士の男女の駆け引きのシーンが少なく、峰不二子のようにラストはジェスがまんまと美味しい所を全部持っていく、という展開でも良かったのではないでしょうか。
この映画を見て思い出しのがブラック・ジャックの中の一篇「山手線の哲」です。

ベテラン詐欺師の哲はヤクザの金を摺ったために、制裁として指４本を切り落とされてしまう。
警視庁の友引刑事は、鉄の指が元通りに動くようブラックジャックに手術を依頼する。
手術により元通りの神業とも言えるスリの手技を取り戻した哲は、「ブラック・ジャック先生に乾杯！」と刑事と二人で飲みかわす…という人情物語でした。

哲はスリとは言え自分なりの矜持を持ち「神業」とも言える技術を持っているのですが、彼の何とも言えない哀感と寂しさをまとった風貌は、何故か見るだけで涙が溢れてしまいます。
「スリ」を生業にしなければ生きていけない者の背景を考えると、この映画のニッキーのスタイリッシュさに違和感を覚えてしまいます。
ウィル・スミスにはもう少し人間味と哀感を出して欲しかったものですが、演技の振り幅の狭い彼には無理というものでしょうね。
ニッキーの相棒「１４０キロのイラン人」ファハドは良い味を出していました。
彼がニッキー役でも良かったかもしれません。